音楽コラム＜vol.98＞ 寄稿：デビッド近藤

「ゴスペルとブルーズ近くて遠い関係…」

前回から、またまた遠のいてしまい…久しぶりの音楽コラムを書かせていだだきます、デビッド近藤です。さて、今回はゴスペルのことを中心に書かせていただきますが、最初に僕は教会で洗礼を受けたクリスチャンではありますが、ここでは「宗教」のことを書くのではなくあくまで「音楽」について書かせていだだきます。

さて、ブルースないしブラックミュージック好きの人に「ゴスペルって？」と聞いてみたとする。多分、かなり具体的に曲名で「プレシャス・ロード」、「ジーザスカミングスーン」…etなど曲名が次々と飛び出すか、楽曲について、「エイントノーバディビジネスに代表されるようなコード進行に、メリスマの効いたボーカルスタイルで…」とか、具体的にマヘリア・ジャクソンや、シャーリー・シーザー、ワイナンズ…など具体的なミュージャンの名前が次つぎに出てくるに違いない。

しかし、ゴスペルは音楽表現のスタイルや演奏方法ではなく「福音＝ゴッド・スペル」つまり「神の言葉」という意味で、キリストへのラブソングであれば演奏スタイルはどんなものでもゴスペルになり得る。

実際に、ラップスタイルのゴスペル、ブルーススタイルのゴスペル、実際にアメリカの教会で歌われるワーシップソング（神と対話する唱歌で黒人のコミュニティで演奏されるスタイルのいわゆるブラックゴスペルと呼ばれるもの…これが多分、ブルース好きの言うゴスペル）から、世界各国の教会で讃美される歌はゴスペルだし、日本や韓国〜アジアにも音楽的にはJポップと変わらない普遍的なゴスペルが多くある。ゴスペル演歌やゴスペル落語まで事実存在する。

ゴスペルになくてはならない条件はただ一つ「聖書バイブルの言う神への愛が歌われている」ということのみなのである。

一方、Bluesブルーズも音楽スタイルはカントリースタイル、シカゴブルーズ、テキサスブルーズ、モダンブルーズ、ファンクに近いスタイルなど、演奏スタイルは多様である。

セブンスコード12小節を中心とした構成（8小節パターンのものや、マイナー調、メジャーコードのフォーク調のもの…et）サウンド的には「いわゆるゴスペル」に限りなく近い。

しかし、決定的に異なるのは（歌われる歌詞〜つまり内容）なのである。

ブルーズでは「この世のこと」、お酒・故郷・町・男女の性・恋愛・労働…などなどの視点からあの世のことを歌ったものも多くある。神のことも歌詞には出てくるが、この世から見た天国であったり、あくまで「俗的な視点からのあの世」ということになる。なので、ゴスペルに対して一人称で歌われる場合が多く、特に初期のブルーズは民家のベランダ等で囁くように歌われたヒーリングの音楽だったのだ。

それに対して、ゴスペルは実際に天国で歌われる歌であり、一人よりもクワイアで兄弟で家族で教会で神へのラブソングとして歌われるのである。そのため近いようで対局にある2つの音楽と言うことになるだろう。

レイ・チャールズの自伝映画「Ray」の中でレイ・チャールズがガールフレンドから批判されるシーンがある。「教会の神聖な歌を勝手に歌詞を変えて歌うのはいけないわ…」と神妙な顔で責められる。これは、ブルースとゴスペルの関係を見事に表すシーンである。

２つは本来交じりあってはいけない音楽だったのだ。

しかしレイ・チャールズはゴスペルもブルースも愛していた。ただ純粋に音楽として愛していたのだ。だから、ゴスペルを自分流に書き換え、俗的なヒットソングにしてしまった。当時のアメリカではタブーなことだったのである。

ブルースとゴスペルの複雑な関係を知ることの出来る映像作品に、９０年代にリットーミュージックから発売されていた「ミシシッピークロニカルズ」というフジテレビの番組がある。ここにはブルースミュージシャンとゴスペルシンガーが交互に登場し音楽について語るのだが、観るにつれてゴスペルとブルースがいかに「近く遠い存在」かを垣間見ることが出来る。

ビデオテープのため長らく観ていないが、いつかデジタル化して残そうと思っている。