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音楽コラム <Vol.11> 寄稿:つむじん
皆さんはブルーグラスというジャンルをご存じでしょうか?
アメリカ南部、アパラチア山脈一帯で生まれた音楽で、楽曲の平均テンポはかなり速く、2拍子で勢いよく演奏されることが多い音楽です。
「ハイ・ロンサム」と呼ばれる高い音程の歌唱と、デュエット、トリオ、カルテット等の美しいハーモニーが付けられるのが印象的です。
歌と歌の合間にはバンジョー、フィドル、マンドリン等によるソロ演奏の魅せ場があり、その形式はジャズを思い起こさせます。
今回ご紹介するのは、ブルーグラス音楽の始祖とされるBill Monroeの「Molly and Tenbrooks」です。
どうでしょう、前に前に進んでいくノリの良さや疾走感を感じてもらえたでしょうか?
これこそがブルーグラス音楽における最大の魅力である「ドライブとグルーブ」だと思います。
この「ドライブとグルーブ」はどのようにして成立しているのか?
私は、最もドライブ感を醸成しているのはBillの歌唱とマンドリンのカッティング、グルーブ感はEarl Scruggsのスリーフィンガーバンジョーだと考えています。
まず、聴いていただいてすぐ気づいたと思いますが、Billは本来のリズムよりもかなり「前のめり」に歌唱している部分が多々あります。
バックが2ビートのカチッとしたリズムを紡ぎだしている上にシンコペーションの効いた歌唱がうまく調和しているために、前へ前へと進んでいくような「ドライブ感」が醸成されています。
厳密にいえば、裏拍で打っているマンドリンのカッティングも、ジャストリズムのほんの少しだけ早めに計算して打たれており、それがさらなるドライブを生んでいると思われます。
次に、スリーフィンガーバンジョーについてですが、この奏法はEarl Scruggsが生み出したと言われています。
8分音符が8つ入るところに3本の指でアクセントをつけて演奏しようなどよく思いついたもんです。
2拍子に対して「3」というポリリズム、異なる時間秩序の「混交」、「同時進行」をさせることで、楽曲の持つ一定のリズム周期からのずれを生じさせ、「うねり」や「揺らぎ」を発生させる…。
こういうある種の異質な演奏法があるが故に、ブルーグラス特有のノリの良さ、つまり「グルーブ感」が生まれるのではないかと考えています。
いずれにせよ、音楽は肌で感じるのが一番です。
このコラムを読んで興味を持った方は、Tony RiceやSam Bushなど他のアーティストもこの曲を演奏しているので、是非聴いてみてください。
各々のアーティスト毎にこだわりの「ドライブとグルーブ」がありますよ。