音楽コラム<vol.64> blackriver_k5
「ブルース・ハープの魅力」
前回からの続きで、大学生となった1987年以降、ブルースの底なし沼にハマっていくわけですが、最も停滞して聴いていたのが、50年代のシカゴ・ブルースでした。特に「チェス・レコード」(※)というシカゴのブルース・レーベルの録音に。
最初に「チェス・レコード」の録音に触れたのが、「Genesis Vol 3 : Sweet Home Chicago」というLP4枚組ボックスで、高校時代に楽器店のS氏が「Magic Sam Live」と一緒に貸してくれたのですが、派手なギターを求めていた頃でもあったため、“なんか暗くてショボいなぁ”と感じ、あまりピンと来ませんでした。
ですが、大学に入り、何故か聴けば聴くほど、パワフルに聴こえるようになり、派手なギターソロは無くとも、バンドから溢れる異様な音の塊に、完全にのめり込んでしまいました。
それまで添加物に慣れてたのが、素材本来の味の素晴らしさに気付き始めたような感覚でしょうか。
そんな訳で、兎にも角にもチェスのレコードを集めるようになり、Muddy WatersやHowlin’ Wolfをはじめ、Jimmy Rogersなどはもちろんですが、特によく聴いていたのが、ハーモニカのLittle Walter、Sonny Boy Williamsonなどでした。
それでは、迫力に圧倒された(歌は当然、歪んだハーモニカの音にも)曲ということで、Muddy Waters の Hoochie Coochie Man(1954)を。
ブルース・ハープと呼ばれるハーモニカの音は、50年代のシカゴ・ブルースではかなり大きな役割を担っており、いつも耳に残るのですが、そこに併せて聴こえるギターのバッキングが、派手さは無くても、隙間を埋めたり、絡んでいく感じが何とも言えないのです。
そんなことを意識しながら、次は、ハープをアンプリファイド(マイクをアンプにつなぎ歪ませる)した第一人者、Little Walterで、これぞシャッフル!という感じのOff The Wall(1953)を。ギターはDave MyersとLouis Myersです。
続いて、生ハープがバリバリのSonny Boy Williamsonで、Robert Lockwood Jr. のギターが美しく絡む、Cross My Heartを。
こんな感じで、ちょうど二十歳の頃に、50年代のシカゴ・ブルースにどっぷり浸かり、この時代のこの音楽しか聴かない(聴けない?)などという、変なこだわりの時期もありましたが、その頃によく聴いた、ブルース・ハーピストのレコードで身につけたギターのバッキングは、今でも役に立ってると思います。
そして、ある時をきっかけに、ブルースの中でも50年代のシカゴものばかり聴いていた頃には、決して聴けなかった、モダン・ブルースに開眼することになります。
※「チェス・レコード」をモデルとし、ビヨンセが製作総指揮を務めた『キャデラック・レコード』(2008年アメリカ)という映画がありますのでぜひ。